最近、一流企業に勤め始めた社員が、数年でやめてしまうという事があるようです。
かつては勝ち組と言われた一流企業への就職。
それをいとも簡単に捨ててしまうには、実はマズローの欲求段階説における、欲求の変化が起こっているのではないでしょうか。

人の働くモチベーションについて、検討してみたいと思います。

マズローの欲求五段階説

人の欲求は段階的に変わる

人の欲求は、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求という五段階にわけられる、と心理学者マズローは説明しています。
そして、低次の欲求がかなえられると、上位の欲求にシフトしていくという風に、人の欲求の構造を説明しています。

それを模式的に表したのが、以下の図です。

詳しくはこちらに解説していますので、ご参照ください。

仕事のモチベーションと欲求段階説

冒頭でもご説明したとおり、人の欲求が変わりつつあるというのが現代ではないかと思うのです。
就職という一つのイベントに際しても、その欲求が、昭和や平成の時代とは違うところにあるとすれば、これまでの見方では上手くいかない可能性があります。

その変化について、少し考察してまいりましょう。

昭和時代の就職に絡む欲求

貧しさから抜け出す~生存欲求

戦中・戦後の時代というのは、日本は貧しい時代でした。
物不足の中で、物を手にしたいという、わかりやすい物欲があったかと思います。
それは、物に囲まれるというより、そもそもが不足しているものを満たしたいという感情。

食べるもの、着る服といった物を欲しいというのが昭和の前半のモチベーションだったのではないでしょうか。

自分の立場を保ちたい~安全欲求

その後、日本経済は発展していきます。
その際には工業が花形産業。
丁寧で、低コストな製造過程が世界を席巻しました。
標準化の時代です。

この時期、多くの人々は、同じ服を着て、同じ顔触れで、同じ仕事を、寸分の狂いなくこなすことが成功の近道。決められたルールの中での効率を最大化することが、社会の要求でした。
そして働く人々もまた、ルールや組織からはみ出ない事が、仕事のモチベーションだったのではないでしょうか。

逆に、そんな社会に窮屈さを感じた子どもたちは、非行に走ったりしたのかもしれません。

昭和後期から平成は「承認」を求めて働いた

組織に所属する事の価値を重視~社会的欲求&承認欲求

その後、昭和の後期から平成にかけて、人は社会に所属する事を大事にするようになりました。
社畜という言葉が生まれる前から、人は組織のために24時間働けますか?という標語の元働きました。
社会からはじき出されることを恐れ、自分を押さえてもなお、会社に時間と命を差し出しました。

そんな中、報奨制度などに邁進し、褒められ認められることを目指して、休むことなく働く人たちが出世するようになります。そして彼らのモチベーションの源泉は、承認されることだけに、一定年齢を超えても、社会から一歩身を引くという事が出来ない傾向があります。

現代の若者が大事にするもの~自己実現欲求

もう10年以上前から、一流企業の職場を去って、ボランティアに勤しむ若者の話題を耳にすることがありました。
現在もまた、超一流企業に就職して、3年程度で退職していく若者が後を絶たないといいます。
これらの若者は、
・とりあえず食べるものや、住むところに困らない
・お金がなくとも、とりあえず食べていける(気がする)
・仕事で社会参加しなくとも社会とつながる方法はたくさんある
・誰かに認められることに感じる価値が希薄(というより人との関わりが希薄)

と言った世代のようにも感じられます。

むしろ彼らのベクトルは自分に向いているのではないでしょうか。
結果として、働くことそのものの意味を見出したい、と考えているのではないかと思うのです。

社会は満たされている!?

高次の欲求を求める若者と社会認識

マズローの欲求段階説は、低次の欲求が満たされると、高次の欲求が生まれるといっているようです。
そのことには反対意見もありますが、厳密ではなくとも、傾向としてはそんなこともあるんじゃないかと思います。

そういう視点で見てみると、私たちの周囲にはもはや必要なものは既に溢れています。
これまでは、欠乏感を何とか満たそうという考えが中心だったかと思います。
しかし、今は欠乏感を満たすというより、新たな成長に向けて歩みたいという感情が強く出ているのではないかと思います。

欠乏は明確だけど成長は見えない

何かが足りないのは、だいたい何が足りないかはわかります。
しかし、どうやればいいかはわからないけど、成長したいとなった時、何をすればいいかがわからなくなります。それが今の若者の生きづらさなのかもしれません。

生きがいと感じるものは、一生懸命になれるもの。
それを探すことが、人生の豊かさを手にする方法なのかもしれません。

ポイント整理

・仕事へのモチベーションは世代ごとに違う
・昭和前半は生存欲求
・昭和後半から平成は社会的欲求と承認欲求
・令和の時代は自己実現欲求
・現代の若者は欠乏ではなく成長のために働く